広島・長崎に原爆が投下されてから80年。被爆者の記憶をいかに継承するか問われるなか、番組では「笑い」を交えて原爆の惨禍を伝えようと取り組むお笑いコンビと、落語家を取材した。
■長崎の被爆2世団体「原爆をテーマにした漫才」を依頼
【原爆体験伝承漫才「希望の鐘」】
お笑いコンビ「アップダウン」 阿部浩貴さん(48)
「私も被爆者として話をしているが、怖さを伝えるだけではダメだ。ユーモアを持って話そうと心がけている」
お笑いコンビ「アップダウン」 竹森巧さん(47)
「希望がなくちゃダメなんだ。今の若い世代に君たちの笑いと歌で伝えてほしい、共に行こう!」
阿部さん
「熱いよね」
竹森さん
「ぐっときません?あともう1つね、ぐっときた言葉。トイレ行きたくてトイレどこですか?」
阿部さん
「君も行きたいのか?」
竹森さん
「私も行きたいんだ、共に行こう」
阿部さん
「重みが全然違うよ」
お笑いコンビ「アップダウン」。北海道出身で広島・長崎には縁がないが、漫才で戦争の記憶を披露している。
被爆体験の継承が課題となるなか、長崎の被爆2世の団体が歴史を伝える作品に意欲的に取り組む2人なら継承に新たな風を吹き込んでくれるのではと、「原爆をテーマにした漫才」を依頼した。
だが、被爆体験を漫才にすることには葛藤があったという。
竹森さん
「いろいろな人に話をしたら全員、絶対やらない方がいいと言う意見ばかりだった。どうしようかなと2人で相談した」
阿部さん
「今回の原爆は1つのテーマとして“想像してみる”というキーワードがあって、やはり僕らは戦争を想像できなくてなかなかリアルなことを伝えるのが難しかった」
被爆者から実際に話を聞くと、熱い思いが徐々にこみ上げてきたという。
竹森さん
「話を聞いていくうちに心の傷が一番つらいというところにたどり着いた」
2021年当初はこの漫才に対して「不謹慎」との批判もあったというが、被爆者からは「続けてほしい」と感謝の声も寄せられているという。
【原爆体験伝承漫才「希望の鐘」】
阿部さん
「ある日、遠くの方でドーンと音が鳴る」
竹森さん
「それ何?」
阿部さん
「空襲ですよ、辺り一面、空襲警報」
竹森さん
「あ~(相槌)」
阿部さん
「空襲警報が鳴り響いているなかで、その家族は家を飛び出して防空壕(ぼうくうごう)で身をかがめてみたら、どっかーん」
竹森さん
「大爆笑!」
阿部さん
「違うよ、大爆笑でどっかーんじゃねーよ」
すべてが漫才というわけではなく、前半は戦時中のエピソードをおもしろおかしく語り、後半は原爆の惨状をまじめに伝えるという構成だ。
阿部さん
「被爆2世の悩みもすごく聞いたりしたので、我々に協力できることは漫才やエンターテインメントの手法で皆さんに知ってもらって入り口をつくることで実際にメッセージを伝えられるので、被爆者や2世3世だと思うので、そこにしっかり橋渡しができるように伝えていこうと思っています」
■被爆2世・落語家の思い 母が長崎市内で被爆
落語家 古今亭菊太楼さん(57)
「一席まあそう長い時間じゃございません。3、4時間ですか。軽く聞いていただければありがたいなと思いますが、『母のお守り』と題名をつけさせていただいています。落語でございます」
被爆者団体が主催した展示会で、原爆投下をテーマにした落語を披露したのは、落語家の古今亭菊太楼さん。
物語は、原爆で母・「静子」を亡くした現代に生きる「宏」が、少年・「隆」と80年前の8月9日、原爆の投下直前の長崎にタイムスリップするというもの。
【新作落語「母のお守り」】
宏
「小さいころに来たおばあちゃん家によく似ているな」
祖母
「静子、また宏が泣き出しちゃったよ。やっぱり飛行機の音が怖いんだね」
宏
「静子?宏?まさか…!?」
静子
「宏、大丈夫、大丈夫。お母さんが作ったこのお守りが守ってくれるから、怖くないよ、ほらほら」
当時の情景を織り交ぜ、ファンタジーや人情噺(ばなし)を盛り込んだ物語だ。登場人物の「静子」は、菊太楼さんの母をもとにしているという。
1968年に長崎県で生まれた菊太楼さん。母・静子さんは5歳の時に長崎市内で被爆した。
菊太楼さん
「ピカッと光ったというのは聞いたことはあるんですね。落語を作るということになった時に、実際その時どうだったのかというのは、本当に(母が)生きていたら聞きたかったなと思いました。だけど母親は嫌がるから。原爆手帳を見せるのも嫌だし、それを見せると差別されるからというのはよく言っていた」
今年、戦後80年。被爆2世の菊太楼さんは、何か力になれないかと思っていたところ、江戸川区の被爆者団体から落語で被爆体験を継承できないかとの依頼を受け、この落語を作った。こだわったのは、当時の様子をどう表現するかだ。
菊太楼さん
「聴いた人が嫌な気持ちにならずに、ちょっとした知識が入ってきて『ああ、そうなんだ』と思ったり、『ああ、こういうことあるんだね』と、じーんときてみたり、そういうものが落語であるものだと思っているので」
【新作落語「母のお守り」】
「宏が子どもをおぶってがれきの中を歩いております。『助けて、助けて、のどが渇いた。水、水が飲みたい、水が飲みたいよ、助けて』。手や足の皮膚がひどいやけどで垂れ下がってるような人が助けを求めている」
宏
「今、助けが来ると思いますから頑張ってくださいね」
菊太楼さんは、今後も落語を通して被爆の悲惨さと核兵器廃絶の必要性を訴えていきたいという。
菊太楼さん
「(原爆について)ちょっと糸口として入っていって、それでまた調べてもらうと、『ああ、こんなひでぇんだ』みたいなものを感じてもらえれば、少しはやったかいがあるのかなと思います」
■「戦争」と「笑い」どう考える?
アップダウンと菊太楼さんに「原爆」を伝えていく思いを聞いた。
アップダウンの竹森さんは「戦争の時代でも、ちゃんと今の我々と同じく笑い合っていたんだということを伝えるためにお笑いというものを生かしている。笑いがなかったら生きていられないと思う」としている。
また阿部さんは、長崎の原爆と何のゆかりもなく、戦争を経験していない世代の自分たちが伝えていくことについて「被爆者が高齢化していくなかで、2世3世の方からどう伝えていくのかについて悩みも聞いた。我々が協力できるのは、エンターテインメントの手法で皆さんに知ってもらう入り口を作ること。そうして、2世3世の方に橋渡しをしていきたい」と話している。
そして、菊太楼さんは「生前、母の口から被爆体験を聞くこともなく原爆に対して関わっているという感覚はなかった。落語をつくることになって『実際にその時どうだった』など聞いておけばよかった。母が亡くなって初めて原爆に向き合うことになった」と、原爆の記憶を次の世代に「継承」することの大切さを話している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年8月11日放送分より)
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